1.はじめに:マンションの資産価値と大規模修繕の関係
マンションにお住まいであれば必ず通る大規模修繕工事。「今の計画のままで3回目、4回目の大規模修繕はできるのか」「修繕積立金はこの先足りるのか」など、「おカネのハナシ」は気になるところですね。しかし、大規模修繕工事は単なる建物の補修だけでなく、マンションの資産価値を維持・向上させる重要な機会でもあります。
マンションの価値は、主に「物件価値」と「生活価値」の二つの要素で構成されています。「物件価値」は主にハード面の要素で、一般的な資産評価の際に考慮されるものです。一方、「生活価値」は主にソフト面の要素で、共同体としての価値ととらえることができます。大規模修繕工事は、これら両方の価値に大きな影響を与える可能性を秘めています。
2.従来の大規模修繕の目的
2.1 構造の耐久性維持
大規模修繕工事の基本となるのは、構造=耐久性の維持です。マンションにとって必要なメンテナンスは様々ありますが、最も基本的で重要なのは、構造を長持ちさせることです。マンションの構造の殆どは、コンクリートと鉄筋・鉄骨でできています。構造を長持ちさせること、すなわち「耐久性を維持」することは、マンションの寿命を左右する重要な要素です。
2.2 鉄筋コンクリート造の特性と劣化メカニズム
鉄筋コンクリート造(RC造)は、非常に多くの建物に採用されている構造です。コンクリートは圧縮に強いのですが、引っ張りに弱いという特性があります。そこで、引っ張りに強い鉄筋を組み合わせることで、圧縮にも引っ張りにも強い「鉄筋コンクリート造」という構造が生まれました。
しかし、この優秀な構造も経年劣化から逃れることはできません。特に注意が必要なのは鉄筋の酸化(錆び)です。コンクリートは本来アルカリ性で鉄筋を保護していますが、外気に晒されることで徐々に中性化が進みます。中性化が進むと内部の鉄筋が錆びやすくなり、構造の強度が低下してしまいます。
そこで、コンクリートの中性化を遅らせるため、外気に晒される部分を保護する必要があります。これが、私たちがよく目にする外壁の吹付塗装やタイル貼りの理由です。大規模修繕工事では、これらの保護層の劣化を修復し、建物の構造を長く維持することが主な目的となっています。
このように、大規模修繕工事の基本は、「構造=耐久性の維持」であり、まずはマンションを長く使うために、コンクリート内部の鉄筋を酸化から守ることなどが大前提として必要不可欠なメンテナンス内容となります。
3.変化する市場環境
3.1 増加する築年数の古いマンション
日本のマンションの歴史は半世紀を越えたところですが、新築から50年を経たマンションはこれから一気に増加していくことになります。東京都においては、2020年現在のストックマンションが1,928,021戸で、なおも新築マンションが分譲されている状況です。築30年以上の分譲マンション戸数は、2020年末から向こう20年間で激増することが予想されています。
3.2 熾烈化する中古マンション市場
このような状況下で、中古マンション市場はますます競争が激しくなっています。単に建物が存続しているだけでは十分とは言えず、住み替え需要の減少、独居老人や空室の増加、修繕積立金の資金不足など、様々な問題が発生する可能性があります。
中古マンションの取引において、ライバルが多くなるのです。そして、選ばれ続けるマンションになるためには、耐久性だけメンテナンスしていてはダメと気付けるかが重要です。
今の時代必要なのは実は、耐久性以外の「快適性」「安全性」「使用性」などの改良・改善項目なのです。
4.資産価値維持のための新しいアプローチ
4.1 「修繕」から「改修」へのシフト
これまでの大規模修繕工事は主に「耐久性の維持」に焦点を当てていましたが、今後は「改良」を加えた「改修」へとシフトしていく必要があります。
国土交通省も、12年程度の間隔で行う大規模修繕工事において、「修繕=耐久性の維持」だけでなく「改良」を加えた「改修」を行うことの重要性を示しています。
4.2 改修の4つの視点:耐久性、快適性、安全性、使用性
改修項目は「耐久性」「快適性」「安全性」「使用性」の4つに分類されます。オートロックの設置や更新、給排水設備や通信インフラの更新、水害への備えなど、実に多くの項目が含まれます。
これらに対応することで、時代に取り残されず選ばれ続けるマンションを目指し、資産価値の向上と快適な暮らしを実現できます。
5.長期的な資産価値維持のための改修計画
5.1 長期改修計画の必要性
多岐にわたる改修項目を検討し、長期修繕計画を見直し、長期「改修」計画を策定していくことが、選ばれ続けるマンションに必要な改修のスタートとなります。この計画は資金計画との両輪で成立するものです。
5.2 改修項目の具体例
マンションにとって必要なメンテナンスの中で、構造の長寿命化に加えて重要なのは給排水管の更新です。また、通信インフラの更新、オートロック・バリアフリー関連への対応、玄関扉とサッシ更新なども多くのマンションに共通する項目です。
6.資金面での考慮事項
6.1 修繕積立金の見直し
長期改修計画を策定するにあたり、様々な項目について採択を検討する際に立ちはだかるのは資金の問題です。修繕積立金の金額設定と積立期間によって、実施可能な工事の範囲が決まってきます。
修繕積立金は、区分所有者全員から、広く薄く長く集めるものですから、長期間になればそれだけ積立額が増えるのは当然です。
なるべく使わないようにしたいと考えるのは自然なことですが、必要なものに使うために積み立てているので、良い計画を立てたいところです。
6.2 工事時期の最適化による資金効率
資金を効率的にプールする方法として、修繕時期の延長があります。国交省の提唱する修繕周期は、昔は10年、直近までは12年周期でいsた。そのため、多くのマンションが12年周期の長期修繕計画になっています。
しかし、2021年9月末に国交省から発表された最新の提唱では、12年~15年周期となっており、修繕積立金の目安金額も上がっています。
ただし、単純に周期を延ばすだけでなく、様々な要素を考慮した適切な判断が必要です。長期改修計画と資金計画は重要ですが、結局解決する必要があるのはおカネの問題なのです。
まず前提として、最大の効果を得られる修繕時期の延期を検討します。RC造の寿命を延ばすための外壁のカバー(保護)について現状を調査し、次回の大規模修繕工事の適切な時期を年単位で延期します。
それと同時に様々な箇所・設備などの期待耐用年数と劣化具合、時期の延長によるリスクマネジメントを適切に行う必要があります。これまでの資金計画と積立額はどうか、これまでの工事内容と現状はどうか、などなどそれぞれのマンションによって最適解は全て異なります。
必要なのは、それらをきちんと検証し、新しい計画を策定すること。現実的にはそれができる専門家をパートナーにすることだと考えております。
7.建替えの難しさと長期使用の重要性
マンションの建替えは現実的には非常に難しい選択肢です。国土交通省の調査によると、築40年超のマンションのうち、実際に建替えに進んだのはわずか約2%に過ぎません。そのため、マンションはできるだけ長く使っていくことが現在における最善策となります。
まとめ:資産価値を維持するための大規模修繕の新たな役割
大規模修繕工事は、マンションの未来を左右する重要な機会です。
物件価値と生活価値の両面を考慮し、マンション固有の特性を活かした改良・改善を行うことで、住民の皆さまにとってより魅力的で価値のある住まいを実現できます。
プロによる資金計画の見直しを含めた長期改修計画の策定で、選ばれ続けるマンションを目指すことが重要です。
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その結果、様々な疑問をしっかり解消でき、納得できる修繕計画を実行することができるようになります。是非詳細をご覧下さい。